**36** **解放**
「水は明朝かならず届ける」と、石橋助左衛門と岩瀬弥十郎が懸命に言う。それを聞きとどけると、ホウセマンは伝えるために船縁から姿を消した。
ずいぶん待たされた。船縁にホウセマンの姿は、なかなか戻らない。やがて、ようやくふたたび現れた。
「今、食事をしているところです。すぐに私ども二人とも戻すと、船主が申しております」
「船主が、芋は今晩届くのか、と尋ねております」とも問うので、助左衛門は、芋も明朝、水や薪とともに届けると答えた。
このやり取りのあいだも、運んできた牛野牛その他の品々の船積みは続いていた。人と荷が舷側を上り下りし、その作業がようやく済んだころ、按針役体の者が、異国船からバッテイラへ降り立った。石橋助左衛門に厚く挨拶をし、言葉は通じぬながら、望みの品を届けたことに感謝している様子に見えた。
けれども、品を積み終えても、二人はなかなか現れない。船べりを見やって待つほかなく、舷梯のあたりに人の動きはない。
あまりに手間どるので、こちらから異国船へ声をかけた。水夫体の者が応じる。オランダ人二人を戻すようにと告げると、ほどなく、シキンムルが船縁に現れた。
「あまりにも遅すぎる。早くこちらへ引き上げよ」
「もう食事は終わりましたので、すぐに降ります。いましばらくお待ちください」
そう言って、シキンムルはまた船内へ戻った。すぐに降りると言いながら、二人はなお姿を見せない。
程なくして、ようやく動きがあった。船主をはじめ、按針役体の者五、六人が、舷梯の際まで二人を送ってくる。懇ろに別れの言葉を述べ、二人を差し戻した。戻すにあたっては、梯子の綱を緋の羅紗で包んだ新しい綱に巻き替えるなど、その扱いは終始ていねいであった。
二人をオランダ番船に乗せ、異国船を離れて漕ぎ出すと、二、三艘の小船が寄ってきた。
「オランダ人は二人とも降りたか」
「二人とも降りました」
尋ねてきたのは、検使の船に乗る御役所付の者であった。