22 詰問

異国船へ食料と水を送ると決めたその同じ口で、図書頭は焼き討ちの支度を命じていた。
オランダ人を取り戻すために、敵の要求には屈する。だがそれは、異国船をこのまま見逃すという意味ではない。国法を犯して港内に押し入り、預かりのオランダ人を奪った船である。無傷で帰してなるものか。補給はあくまで人質を取り戻すための方便である。船はなお、焼く。図書頭の腹はそこにあった。
両御番所からは、相も変わらず「人数いまだ揃わず」の報せばかりが舞い込んでくる。その最中で、図書頭は佐賀藩聞役・関傳之允を、呼び出した。
また、である。異国船が現れて以来、関はこの呼び出しを幾度繰り返したか知れない。或る書状は、その数を十七回と伝える。この夜明けの呼び出しは、すでに七度目か八度目に当たった。夜が一睡もないまま明けようとしている。東の空がわずかに白む頃であったろうか。
関が西役所に着くと、甲冑姿の図書頭は、低い声で命じた。
「焼き打ちの支度はどうなっておる。やり方を申せ」
昨日、オランダ人拉致の急報が入ったとき、図書頭は関にこう命じていた。すぐに紅毛人二人を取り戻したうえで、慶長の昔に南蛮船を焼き沈めた例に倣い、敵船を打ち砕いて焼き沈めよ。焼草火船その他の支度を整え、書面で報告せよ。敵に悟られぬよう、国許へは増援を急ぎ要請せよ――と。
その結果を、いま問うているのである。
だが関は答えられなかった。焼草火船の支度についても、慶長の焼沈例についても、具体的な説明は出てこない。
「焼き打ちのことは、承知しておりませぬ。すぐに深堀の役人どもに命じ、文書にして差し出させまする」
そう答えるのが、精一杯だった。
図書頭は重ねて命じた。
「では、佐賀藩の警護に出せる人数を申せ」
これにも、関は即答できなかった。在長崎の兵がどれだけいるのか。佐賀からの軍勢がいつ着くのか。
図書頭の口調は鋭く、関はただ平伏するばかりであった。
その関が頼みの綱とする深堀藩にも、軍勢の揃う気配はない。図書頭は稲佐方面の警護に出していた長崎代官・高木作右衛門を呼び戻し、野母支配所の番所へ向かわせた。高木は即刻、番船で発った。
奉行所は総出で西泊・戸町の両番所へ走った。だがそこから返ってくるのは、またしても「いまだ人数揃わず」の報せばかりである。諫早からは、軍勢がいつ発つのかの連絡さえ来ない。一刻ごとに、出帆の時が近づく。このまま支度の整わぬうちに敵が港を出てしまえば、すべてが終わる。図書頭の焦りは、深まるばかりであった。
関に問うても埒が明かぬ。佐賀も福岡も、頼みにならぬ。
そこで図書頭は出島へ目を向けた。
世界の海を知る者がいる。
ドゥーフである。

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