参照史料

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本ページは『フェートン号事件の全貌』の執筆に際して参照した史料の一覧である。個々の章で引用した箇所については、本文中および脚注で出典を明記しているが、ここでは全体像を把握しやすくするために、主な一次史料・補助史料・研究文献をまとめて掲げる。


構成
Ⅰ 日本側一次史料
Ⅱ オランダ側一次史料
Ⅲ イギリス側一次史料
Ⅳ 同時代・周辺史料
Ⅴ 近現代の研究・解説
Ⅵ 本書での引用方針について


Ⅰ 日本側一次史料

フェートン号事件当時の長崎奉行所・長崎町・諸藩の動きを知るうえで、基礎となる史料群である。

  • 『通航一覧』
    編者:長崎奉行所
    媒体:写本・刊本
    内容:異国船来航・長崎港内の船舶往来・奉行所の応接経過などを年代順に記録。フェートン号事件に関しては、艦隊出現から事件後の処分に至るまでの公式経過が比較的まとまった形で残されている。
  • 『崎陽日録』
    編者:長崎奉行所関係者
    媒体:写本
    内容:長崎での出来事を日次で記した日記史料。フェートン号事件当日の動きや、町・港の様子を具体的に知る手がかりとなる。
  • 『長崎奉行の記録』に収録された諸文書(『長崎西役所日記』ほか)
    出版社:長崎文献社
    内容:奉行所の内部記録・日記類を集成したもの。事件処理にあたった図書頭・奉行与力・同心らの動向を復元する際の基礎資料とした。
  • 『用部屋日記』
    内容:長崎奉行所用部屋(庶務・記録担当部局)の日記。通達・伺書・役人の出勤退・出張など、行政の現場の動きを細かく伝える。
  • 『長崎商館日記』(日本側控え)
    内容:出島オランダ商館と奉行所とのやりとりを中心に記録した史料。通詞・商館役人の出入り、商談、オランダ人側への伝達内容を確認するうえで参照した。
  • その他の史料
    ・各藩文書(佐賀藩・福岡藩・熊本藩など)のうち、フェートン号事件に触れる部分
    ・長崎諸役所の日記・控え類
    ・長崎町年寄・町役人関係文書

Ⅱ オランダ側一次史料

フェートン号事件は、オランダ商館・オランダ東インド会社(VOC)の末期史とも深く関わっている。ここでは、オランダ側からの視点を伝える史料を挙げる。

  • 『回想記(Recollection of Japan)』
    著者:ヘンドリック・ドゥーフ(Hendrik Doeff)
    内容:ナポレオン戦争期に長崎商館長を務めたドゥーフによる回想録。フェートン号襲来時の自身の行動や、幕府・長崎奉行所との関係について自らの立場から叙述している。
  • 『Dagregister』(長崎商館日誌)
    内容:出島オランダ商館が日々の出来事を記録した公的日誌。日本側控えとの比較を通じて、通詞による翻訳・取次の過程を検討する際に用いた。
  • オランダ本国・バタビア側文書
    内容:インド洋・極東方面の海軍行動、商館運営、通商政策に関する指令・報告書。フェートン号事件とオランダ側の植民地統治政策との関係を考える際の背景資料とした。

Ⅲ イギリス側一次史料

フェートン号を含むイギリス海軍の行動については、以下の史料を中心に参照した。

  • Walter Gourlay「Narrative」(仮題・手稿)
    内容:フェートン号乗組員によるとみられる事件記録。船内の事情、艦長フリートウッド・ペリューの判断、日本側との交渉過程など、英海軍の視点からの情報を提供する。
  • イギリス海軍記録・艦隊日誌
    内容:インド洋方面司令部の命令書、フェートン号の行動記録、同時期に活動していた艦隊・フリゲートの報告書など。
  • 当時の新聞・雑誌記事
    内容:フェートン号の戦果・行動を報じた英字新聞等。当時の世論が本件をどのように理解していたかを知る手がかりとなる。

Ⅳ 同時代・周辺史料

フェートン号事件を、長崎および日本社会全体の文脈のなかで位置づけるために参照した史料。

  • 長崎町方関係の記録(町年寄日記・町帳面など)
  • 出島・唐人屋敷・長崎三座に関する史料
  • 長崎・肥前国内諸藩の財政・軍制・海防政策に関する記録
  • 他の異国船来航・海防出兵の記録(寛政・文化年間)

Ⅴ 近現代の研究・解説

ここでは、本書の構成や解釈に大きな影響を与えた主な研究書・論文のみを挙げる。詳細な文献表は別途作成のうえ、順次追補する。

  • 片桐一男ほか、フェートン号事件および長崎海防に関する研究
  • 長崎地方史・通詞史・出島史に関する諸研究
  • ナポレオン戦争期の海上戦略・英海軍史・インド洋海域史に関する研究
  • オランダ東インド会社末期史・アジア通商史に関する研究

(※個々の書名・論文名は、後日整理のうえ追記する。)

Ⅵ 本書での引用方針について

本書『フェートン号事件の全貌』では、史料の引用と分析について次の方針をとっている。

  1. 一次史料の原文をできるかぎり掲げること。
    重要な場面については、原文・読み下し・現代語訳を並記し、読者が自ら判断できる材料を提示する。
  2. 史料間の比較・照合を重視すること。
    同一の出来事について複数の史料を突き合わせ、記述の差異・欠落・矛盾を明らかにしたうえで、どのような事情が背景にあったのかを検討する。
  3. 「史料の沈黙」も手がかりとすること。
    どの史料にも記されていないこと、あるいは意図的に省かれていると思われる点について、当時の政治状況・社会関係・書き手の立場を踏まえて慎重に推論を試みる。

本ページは、上記の方針のもとで用いられた史料群の全体像を示すことを目的とする。個々の史料については、今後、別途「史料ガイド」として詳細な解説を用意する予定である。

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